「MEMENTO」の前日談となるホラーゲーム。2017年ラボゲームスタジオ。RPGツクールMV製。

DORMITORY

開発コンセプト

やちこさまの告白

あっ やちこさま! どうしたんですかこんな所で

みやこ… 
わたし、あなたを待っていたの。

本当は…黙っていようと思った。
でも、この気持ちを抑えられなくて…

どうしても、あなたに伝えたいことがあるの。

や やちこさま… それって…

このゲームの開発コンセプトについて。

今作DORMITORYで一番描きたかったのは、
ホラーでも戦争でもない。

一番描きたかったのは、
「善意ある普通の人間が、ある出来事をきっかけに少しずつおかしくなっていく姿」
「それでも、立ち直ろうと必死にもがいている姿」
なんだよ。

? どういうことなのです?

まず、DORMITORYのストーリー(すなわち先生の記憶の中)は、
太平洋戦争中に実際に起こった、以下の悲劇が元になっている。

対馬丸沈没事件

リンク先のアニメ記事を読んでもらえばわかるけど、
本作に登場する敵クリーチャーも、
原則としてこの実際の事実が元になっているんだ。

じゃあ… サメとか、○○って、
この事件になぞって…

他にも、当時の記録を調べていくうちに見つけた、
「誰にも話すことができなかった」
「生き残ってしまって、ごめんなさい」
という、当時の遭難者のメッセージがすごく心に残っている。

地獄の漂流の後、運よく命が助かったとしても、
その後誰にも話せず、心の内に鍵をかけながら
生きていくしかなくなかった。

これは、掲載の許可を得たから話しておきたいんだけど…

去年、作者の地元の友人の、おじいちゃんがお亡くなりになったんだ。
102才だった。
若い時に太平洋戦争を経験しているし、戦時中は戦地で武器を握っていたらしい。

お通夜のときに友人から聞いたんだけど、
亡くなる数ヶ月前の深夜、おじいちゃんが突如病院で、
「○○兵が攻めてきた!!」「隠れろ!!」って叫んで、
夜中に暴れだして、大騒ぎになった
らしいんだ。

…え…

おじいちゃんが、戦後70年、
どういう気持ちで生きてきたかは分からない。

でも、戦後70年も、頭の奥深くに「地獄」を抱えて
生きてきたってことは間違いない。

頭の中に「地獄」…

そんな話を友人から聞いて、
改めて、MEMENTOに登場した「先生」というキャラクターと重ね合わせてみると、

運よく、地獄の遭難から生き延びて、 母校の学園に戻ってきた後も、
一体どれだけ心の中で苦しい想いをしてきたんだ…と
改めて気付かされたんだ。

こんな話をしても
「戦争中の話しでしょ?自分には関係ないし」
と思われるかもしれない。

でも、先生の抱える
「頭の中に存在する地獄」
「克服しようとする意思」
は、
ゲームをプレイしてくれる方たちにとっても、伝わると思った。

そしてこれは、この2年間の作者にとって、
どうしても描きたかったテーマだったんだ。

どうしてそれが、描きたかったテーマなんですか?

2年間、自分の身に降りかかった「事件」

前作のゲーム「MEMENTO」発表から2年になるけど、

実はその2年間、作者・晋太郎の身にも
色々なトラブルがあったんだ。

トラブル? 何かあったんでしょうか

それまで仲がいいと思っていた親戚のおばさんが、
うちのおばあちゃんの遺産相続の話題をきっかけに突然、
面と向かって親に汚い暴言を吐いてきたり

信用できると思っていた姉さんの旦那が、実はどうしようもない非常識男で
とうとう姉さんが泣きながら子供を連れて実家に帰ってきたり
ってことがあってね。

とくに前者のほうは、裁判手前の、ギリギリの緊張状態だった。

ぇ…

はっきり言って、こんなにも直接
人間の汚い部分を見ることになるとは
思わなかった。

向こうは完全に頭に血がのぼっていて、
「訴えてやる」とも言ってた。

結局、何もなかったけど、
裁判所から通達が来るかもしれなかったから、
家の電話にも、親からの報告にもビクビクする日々が続いた。

とにかく、家の中に「安らぎ」なんてものが一切無くなって。
部屋にいても、締め付けられるような閉塞感ばかり感じるようになった。

そんな…

心理状態って、すごく不思議なものでね。

本来、安らげるはずの「家」も、
人間関係ひとつで、とたんに地獄に変わる

構造も、内装も、普段となにも変わらない。
危険なオブジェクトがあるわけでもない。

でも、「いまに何か良くないことが起こるんじゃないか」って不安と絶望が、
家中を埋め尽くしているように感じたの。

そしてこの地獄は、他でもなく
自分の頭の中が作り出して、自分自身に見せているんだよ。

ゲームの中の、妙な閉塞感といいますか…絶望的な雰囲気は、
そういう体験から来ていたんですか?

作者自身が、先生の心に感情移入していくための、大きなきっかけにったと思う。

本題に戻るけど、
「先生」は、疎開船事件という過去の大きなトラウマに苛まれつつも、
気丈に生徒たちを慈しもうとする、
優しく、正しくあろうとする人である
ことは間違いなかった。

でも、やはり不安定なところもあって、
ちょっとした不可解な事
(例えばおかしな人影を見たとか、何か寮の備品がなくなったとか…)から、
生徒や自分の周りに対する不信感が生まれ、
それが生徒たちとの関係を少しずつこじらせていく。

先生と生徒たち。お互いに不信感、欺瞞の心がキリキリ強くなればなるほど、
悪夢のような現象がどんどん酷くなっていく。

お互いを信じきれない気持ちが、悲劇を広げていく…

そう。
そしてとうとう、怒鳴ったり手を上げたりして、
そのことがまた自分自身を責め続け、
針のむしろに座らせられているような、肩身のせまい思いをずっとしてきたと思う。

本作は、ホラー作品ではあるけれど、
「怪物から逃げきれれば、めでたしめでたし」というような
話ではない。

その背景には、
「人を信じられない気持ち」「うまく振る舞えない自分の罪の意識」という、
誰もが心の内に持っている気持ちに、焦点を当てているつもりなの。